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人民元2012/4

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中国、人民元の変動幅を上下1%に拡大

(2012年4月)

中国人民銀行は2月14日、
人民元の対ドル相場の変動幅を「上下1%」に拡大すると発表した。
(実施は2月16日から)

人民元の変動幅は、2007年5月に、それまでの上下0.3%⇒0.5%に拡大されたが
今回の変更(拡大)はそれ以来5年ぶりとなる。

人民元の対ドル相場の推移、中国の政策変更

人民元の改革と中国の思惑

上図の通り、人民元は、中国当局の政策変更が起点となって相場が動いていてきた。

2007年5月に変動幅を0.5%に拡大することで、以降、人民元高が進んだが、
2008年7月には金融市場の混乱に対して輸出企業を守る目的で
事実上の対ドル「固定相場」(ペッグ制)を敷いた。

そして2010年6月に人民銀行が「人民元相場の弾力性を高める」と発表後、
再び人民元の緩やかな上昇が始まった。

今回、人民銀行は「市場の要請に従い、人民元の双方向の柔軟性を高めた」と
人民元の「通貨改革」姿勢を強調した。

では、ここには中国のどのような意図と思惑があるのだろうか?

①「ドル不信」と人民元の国際化戦略

米国は、この間一貫して中国の「元安」政策を批判し、元切り上げを要求し続けてきた。
しかし、実際は、「チャイニーズランドリー」と呼ばれる以下の構図、
中国の対米輸出黒字⇒中国の為替介入(元安政策)⇒ドル資金で米国債購入
によって米国⇒中国⇒米国と資金は還流し、米中はwin-winの関係を持っていた。

米国の元安批判は、国内向けの政治的なポーズであり、
実際は、米中双方が「おいしい関係」にあったわけだ。

しかし、中国はこの間、米国の金融緩和(国債購入、モーゲージ債購入)で
FRBの資産が短期間に3倍に膨れ上がり、
ドルが劣化し続ける状況に危機感を持ち始めた。

世界のドル基軸通貨体制が、早晩終焉に向かうとの認識を持ち始めた中国は、
ドルからの離脱と、人民元の自立へ、軌道修正を始めている。

東京での人民元オフショア市場創設や、
円と人民元の直接交換(ドル介さない交換)システム構築の動きもその一環であり、
今回の「通貨改革姿勢」も同様である。

②中国の「内需主導型」へのシフトチェンジ

中国はこれまで元安と低賃金コストを武器に、輸出主導で国力を伸ばしてきた。

だが、これを永久に続けることはもちろん不可能。

経済成長とともに人民元の通貨高は避けられず、賃金も上昇し続けて行く。

この結果、海外から流入し続けた資金は、
他国へ流出、または本国へ回帰する流れが生じ、
「資金の枯渇」と
「輸出を原動力とした経済成長路線の限界」という壁に突き当たることになる。

中国政府は、すでにこれに対応した戦略変更に着手し始めており、
これまで外国資本によって持ち込まれた技術を国内に定着させて
内需主導にシフトチェンジするとともに、
「資金の流出」に対しては人民元の規制緩和と国際化によって、
資金調達を可能にする体制を構築しようとしている。

人民元の国際化は、①の「ドル不信」とともに
②の、「内需主導への転換」と中国からの資本流出に対応する国際戦略がある。

③穀物と資源の高騰

穀物と原油をはじめとする資源の国際価格は高騰に向かっている。

中国国内でもガソリン価格の高騰により、輸送費コストが押し上げる形で
生鮮食料品が高騰している。

チュニジアの「ジャスミン革命」や「エジプト革命」など
北アフリカ、中近東のイスラム世界で続いた民衆の反乱⇒革命、政変が
食料高騰を背景に人々の不満が爆発した状況が中国で発生することを
中国当局は非常に恐れている。

元安を続けることは、政治的なリスクを増大させる可能性があり、
転換は不可避なのである。

④「経済成長の減速」発表というタイミング

4月13日、中国は、2012年1~3月期の実質成長率が8.1%に沈み、
5四半期連続の減速を示した、と発表した。
(欧州への大幅な輸出減少などにより2月の貿易収支が赤字に転落)

そして、翌日の4月14日に「人民元の変動幅拡大」が発表されている。
2月18日には、預金準備率の引き下げという金融緩和を行った)

つまり、中国当局は、
変動幅拡大をしても急激な元高が起りえないタイミングで
人民元改革の発表をセットしたわけだ。

(人民元の変動幅拡大は、中国経済の先行き不透明感と金融緩和により
 元高ではなく、むしろ当面の間は元安をもたらす可能性がある。)

中国は、①②③の要因により人民元改革と経済戦略を連動させながら
新たな中国の成長のあり方に向け金融と経済システムを転換しようとしている。

そして、④に見られる通り、独裁国家であることの強みである機動性を発揮させながら
中国は実にしたたかにかじ取りを行っているのである。

(2012年4月14日)


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