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郵政・アフラックの連携とTPP(2)

カテゴリ:TPP

郵政・アフラックの連携とTPP(2)

   ⇒《前回からの続きです》郵政-アフラックの提携とTPP(1)

日本郵政とアフラック(米保険大手アメリカンファミリー生命保険)の提携は
今後、日本の保険市場に極めて重大な変更をもたらします。

日本政府の後ろ盾があるという「安心感」と
「2万以上の郵便局」をつかった「アフラックと提携した新がん保険」販売は
辺地や島嶼部を含め、全国で、売り上げを、そして利益を伸ばす武器となります。

けれども米国は、これまでこう言ってきたのではないでしょうか?

「日本政府の後ろ盾があるかんぽ生命(日本郵政グループ)が、日本の健全な競争を阻害している」

2012年には、米通商代表部(USTR)のカトラー代表代理が日本にやってきて
かんぽ生命のがん保険への参入に圧力をかけ、
その意向をくんだ西室泰三・郵政民営化が「かんぽ生命のがん保険参入を認めない」方針を発し、
当時の日本郵政社長・斎藤次郎氏に「参入を凍結する」と言わしめたわけです。
(その後も、米駐日大使が何度も郵政担当大臣に同様の牽制・圧力を繰り返してきました。)

米国は、これまで繰り返してきたロジックを捨てるのでしょうか?

当然、捨てます。

なぜなら、米国が日本郵政をけん制してきたのは
米国の保険会社の利益が損なわれるのを止め、
米国の保険会社の利益を拡大することが目的だからです。

米国の保険会社(アフラック)が日本郵政と手を組みがん保険を販売して
「日本の保険市場の健全な競争を阻害すること」は
『全く問題ない』のです。

米国の次の狙いは、保険「第1分野」

前回の話をもう一度繰り返します。

1970年代に、米国の保険会社が日本市場に参入する際、
日本政府は、日本の大手保険会社が「がん保険、医療保険などの第3分野に参入することを禁じ」
米保険会社に第3分野を独占させたわけです。

その結果、アフラックなどの米保険会社が、日本の第3分野の「8割のシェア」を握ることになりました。

次に米国は、日本郵政の「民営化」を要求してきます。

その意向をくんだ小泉首相がこれを断行したわけです。
(このときには、財政投融資制度はすでに改革されていていましたので
 郵政民営化と官僚支配構造の改革は既に結び付かないものだったにもかかわらず
 なぜかこれが「日本を刷新する」手段だというイメージがつくられました。)

そして米国は、かんぽ生命が新たな事業を展開しないように圧力をかけ、
今回めでたく、アフラックとかんぽ生命の提携を達成したということです。

営業利益の8割を「米国で、ではなく」「日本で得ている」アフラックは
さらに利益を伸ばすことになるでしょう。

そして次に米国が狙っていることは何か?というと

日本の保険「第1分野」での
米保険会社の利益拡大のための「日本改造」です。

狙われているのは「共済」と「公的医療保険制度」です。

これについては、また別の機会に書きたいと思います。

「農業を守る」ために「保険で譲歩」???

今回の郵政-アフラック提携について、大手新聞社などは
「TPPで今後困難な交渉が予想される農業分野などでの譲歩を引き出すため
 今回の提携によって米国を抱き込み、日米交渉の進展につなげようとしている」
などという論評を行っています。

これは、よく言えば「読み違い」、本当のことを言えば「意図的なミスリード」、です。

TPPをめぐる報道では
もしコメ、砂糖、乳製品などの関税が撤廃されることになれば、
コメ農家は4割減り、沖縄のサトウキビ農家は壊滅し、酪農も離農が相次ぐ
とされ、危機感が煽られています。

もちろん、危機感は持つべきです。

日本の農業を守ることは、食の安全、地方経済を守ること、国土の保全、日本の安全保障において
きわめて重要なことです。

ただし、TPP交渉において、米国がそれを求めてきますか?
という重要論点が意図的に削られています。

米国は、高関税と補助金を柱とした典型的な「農業保護国」です。

落花生の関税は164%、ピーナッツバターは132%など数多くの高関税農産品があり、
高関税と補助金で守られている「砂糖」については、米・オーストラリアのFTA交渉でも例外品目としましたし、
ニュージーランドからの乳製品輸入も断固として例外品目化する、というのが米国の姿勢です。

コメについては?

米通商代表部(USTR)の「2012年外国貿易障壁報告書」には
「米国は、日本が今後ともWTO上のコメ輸入に関するコミットメントを満たすことを期待する」
と書かれています。

つまり、WTOで約束したミニマムアクセス米輸入を日本がこれからも続ければ、それでOK、ということです。

日本が輸入することを約束したミニマムアクセス米70万トンは、
その半分が米国から輸入することが密約されていますし、
そもそも水を大量に使うコメ生産を大幅に増やす余力は米国にはなく、
コメ輸出は米国にとって、それほど「おいしい」話ではないわけです。

では、米国は、TPP交渉を通じて何を狙っているのでしょうか?

米国が今、圧倒的な強みを持っているのは、
「投資」や「保険」などの金融部門です。

製造業はすでに衰退していますし、
農業は補助金と関税に守られた競争力のない産業分野です。(一部を除いて)

つまり米国は、TPPを通じて
米国の銀行や保険会社が自由に、これまで以上に利益を得られるルールを
交渉参加国に認めさせることを目的としているのです。
(農業では、徹底的に守りに入るでしょう。)
(ただし、安全検査などにおいては、米国ルールを押しつけようとするでしょうが)

ですから、今回の郵政-アフラックの提携で、米国の農業分野での譲歩を引き出せる、
などという論評は全く意味のないものですし、
今回の譲歩で、さらなる保険分野での譲歩が求められることになる、だけの話です。

また、少し長くなりましたので
今後のTPP交渉の見通しについては
また次回書きたいと思います。

郵政-アフラックの提携とTPP(1)
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