経済危機/日本と世界

デトロイト市の破綻と年金

デトロイト市の破綻と年金

7月18日、ミシガン州デトロイト市が
米連邦破産法第9条を裁判所に申請して財政破綻しました。

負債総額は180億ドル(約1兆8000億円)で、米自治体破綻としては過去最大。
(2011年のアラバマ州ジェファーソン郡の破綻は、40億ドルでした。)

サービス支出の圧縮を行ってきたデトロイト市は、破綻前から治安は悪化していて
街灯の40%は故障したままであり、
犯罪事件の解決率はなんと8.7%。(90%以上の犯罪が未解決のまま放置されている。)

自動車の町として世界的に有名なデトロイト市は、最盛期には人口200万人でしたが
GMが2009年に経営破たんするなど自動車産業は衰退し、
多くの自動車メーカーが海外生産に活路求める中で工場の閉鎖・縮小が続き、近年は70万人にまで縮小しています。

ただし問題は、人口流出、企業流出だけにあったわけではありません。

デトロイト市の破綻申請を認可したミシガン州知事のスナイダー知事は
同市の歳入の38%が、
負債支払いと「レガシーコスト」と呼ばれる年金・医療費の負担に費やされていること、
このまま放置すれば、この比率が2017年までに65%に増大すること
をあげました。

つまり、「公務員等の年金債務」が膨張して市の財政を圧迫し、破綻の原因となった、
ということなのです。

狙いは「年金カット」にある

日本の場合は、「自治体を破綻処理する」ということはありません。

破綻した夕張市のケースでも、
「財政再建計画」の策定を義務付けて、健全化を促すという方法を取りました。

しかし、ミシガン州知事は「他に選択肢はない」として
デトロイト市の破産申請を認めたわけです。

民間企業が破綻し、連邦破産法が適用される場合(例えば、2009年のGMのように)、
従業員に対する「年金債務」「医療費負担」などの「レガシーコスト」(積み上がってどうすることもできない従業員への債務)を
これを機に一掃してしまうことができます。

「破産法適用」という事実によって、労組ともめることもなく、
働いてきた人々に「約束は果たせない事態となりました」ということで
企業は身軽になり、再生の道を歩き出すわけです。

デトロイト市が「破産申請」をした理由もここにあります。

「隠れ債務」の一掃を始める米国

公務員は、雇用契約通りに年金・医療費を受給する権利が、
法律によって手厚く保護されています。

公務員の年金積立金が不足しているのはデトロイト市だけではなく、
ロサンゼルス市も「年金基金積立不足が300億ドル(3兆円)」など、
年金債務の不足が膨大で、返済不能状態にある市は多数あると見られています。

州レベルでも、109の年金基金の積立不足額は8342億ドル(約8兆円)であり、
米国は、表に出ている財政赤字累積額よりさらに膨大な「隠れ債務」を抱えているのです。

これらの年金債務は法律で保護されている上に、労組など利害関係者との合意は極めて困難で
通常の方法で解決不能な問題となっています。

そこで、「自治体の破産」という手法で
年金債務問題を一気に片付けて行くことが考えられたわけです。

デトロイト市の破綻(破産法申請)は、その「はじまり」であり、
今後の裁判所審理が「年金給付削減に切り込む最初の例になる」として注目されているのです。

おそらく、これが「はじまり」になるでしょう。

そして同様の問題を抱える多くの市、州などが、
破産法の申請という手段によって、年金カット(隠れ債務)を行うことになります。

デフォルトを使った新手の債務軽減策が米国で始まろうとしています。


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