経済危機/日本と世界

日銀と金利2013/5

金融危機 経済破綻 世界・日本 > ニュース > 国内ニュース > 日銀総裁「長期金利抑制に尽力」

文字サイズ:

日銀総裁「長期金利抑制に尽力」

(2013年5月23日)


《ポイント》

  • 日銀黒田総裁は、急上昇している長期金利について「抑制に尽力する」と述べると同時に
    「長期金利はコントロールできない」という開き直り発言を行った。
  • 「日銀の意図から外れた金利上昇ではない」という説明のために「期待インフレ率」を持ち出した。
  • インフレには「良いインフレ」と「悪いインフレ」がある。
  • 銀行に膨大な資金が滞留する一方、民間の資金需要は弱い状態が続いており、
    日銀によってばらまかれたマネーによる「悪いインフレ」が始まる可能性がある。

日銀の黒田総裁は5月22日の金融政策決定会合後に記者会見を行い、
問題化している長期金利上昇に対して「引き続き(金利抑制に)尽力し行く」と述べた。

具体的には
「必要に応じて(国債の)買い入れ頻度やペース、買い入れ対象の調整をして、
 弾力的にオペ(公開市場操作)を行う」と説明した。

日銀は黒田新体制によって異次元緩和を実施し、
それにより金利を引き下げ、景気刺激(デフレ脱却)を目指してきた。

しかし、国債市場は乱高下を繰り返すようになり、5月に入り長期金利が急上昇している。

日銀がこの事態をどうとらえているのか注目が集まっていた。

しかし、黒田総裁は
市場金利がこれ以上、急激に「跳ね上がるとは予想していない」と述べるにとどまった。

これは先月と同じ発言の繰り返しであり、歯切れの悪さばかりが印象付けられることになった。

「全てコントロールできるものではない」

さらに総裁は
長期金利は「短期金利のようにすべてコントロールできるものではない」と述べた。

これは一般論であり、現在起っている事態の説明を放棄し、
事実上、日銀がコントロールできない状態に落ち入りつつあることを追認した発言にしか聞こえない。

ではなぜ、従来までの伝統的な手法である短期国債に限った買い入れから転換し、
40年物を含むすべてのゾーンでの国債買い入れを大規模に開始したのか?

それが国債売買を細らせ、相場の乱高下をもたらし、国債リスクを投資家に意識させ、
長期金利の急騰をもたらしたのではないか?

短期金利だけでなく、長期金利も低下させることで経済の活性化につなげようという
黒田日銀の意図は、現時点では裏目に出ていると言えないか?

こうしたことへの説明は皆無のまま
「すべてコントロールできるわけではない」と逃げを打つ発言に終始すれば
異次元緩和政策の「戦略的な底の浅さが露呈した」と市場から評価されることになる。

歴史上類例のない金融緩和を開始し・主導しているはずの中央銀行(日銀)に対して
市場の信頼失われれば、市場の暴走が始まってしまう。

黒田総裁は果たしてそのことへの認識があるのだろうか?

「期待インフレ率の上昇」?

黒田総裁は、長期金利は「コントロールできるものではない」と言う一方、
金利が上がって行く要因として「期待インフレ率」の上昇に言及した。

つまり、日銀の「意図を外れて」長期金利が上昇しているのではなく、
日銀が「意図したとおり」「期待インフレ率が上昇」したことで長期金利が上昇している
という説明を始めたことになる。

期待インフレ率の代表的な指標は「ブレーク・イーブン・インフレ(BEI)率」。
(通常の国債と物価連動債の流通利回りの差から求める)

BEI率は、黒田総裁就任直前の1.3%台から現在1.9%台に上昇し、過去最高水準となっている。

この数値は、市場が2%近い物価上昇を予想していることを示している。

黒田総裁はこれをもって長期金利上昇を正当化し、日銀の政策の正しさを説明しているわけだが
問題は、この物価上昇予測が何によってもたらされているか、という評価だろう。

インフレには「良いインフレ」と「悪いインフレ」がある。

「良いインフレ」とは、経済が活性化することに伴って現れる物価上昇であり、
「悪いインフレ」とは、経済実態と無関係に(景気が悪いにもかかわらず)発生する物価上昇だ。

では、現在の日本経済の状態は2%の物価上昇をもたらすほどの活性化に向かっている
と評価できるだろうか?

できないとすれば、
日銀の緩和策によってあふれだしたマネーによって、
また円安による輸入物価の上昇によって
物価が上昇するとの予測であり、これは「悪いインフレ」への流れを意味する。

日銀は「物価上昇2%」を目標に金融緩和行っているわけだが、
長期金利のコントロールができないと早々と開き直る日銀に
物価のコントロールなどできるはずがない。

「預貸ギャップ」が意味すること

4月の、銀行の「預貸ギャップ」は過去最大の184兆円を記録した。

「預貸ギャップ」とは銀行の預金残高と貸出残高の差を示す。

この数字が過去最大ということは、銀行に膨大な資金があるにもかかわらず、
「貸出しが伸びていない」ということ。

これは民間の資金需要が今だ生まれていないことを意味し、
日銀が緩和マネーを銀行に流しても滞留している現状を示している。

つまり、「良いインフレ」をもたらす経済の活性化など全く生じていないということ。

こうした分析を抜きにして「期待インフレ率」を持ち出して語る黒田総裁と言う人物は
通貨の番人としての技術者ではなく、政治家の類とみなすべきだろう。

どちらにしても、人類史上類例のない巨大な金融緩和策が
コントロール能力を失った日銀によって続けられることとなる。

そう遠くない先に、市場の乱高下、混乱が待っているだろう。

私たちは、きちんと市況を見極めなければならない。

(2013年5月23日)


関連ページ

日銀と国債~破綻に向かう異次元緩和(6/10)
FRB、量的緩和を当面継続 (2013/5/23)
長期金利急上昇が意味するもの (2013/5/18)
生保、外債投資へシフト (2013/4/10)
円安値上げがはじまる (2013/2/27)
経常赤字化と円安がもたらすもの (2/8)
値動きを荒らす、超高速取引 (2/14)
生損保は、株高でも株売却 (2013/2/15)
公的年金運用、国債依存を見直し (2/25)
生保・銀行、金利上昇対策を開始 (2/4)
日銀に依存する国債発行 (1/31)
日銀の金融緩和、100兆円超へ (2012/12/21)

国内金融News / 国際金融News
金融と金融商品top / ☆金融の基本

金融・住宅ローン・生命保険・税金

powered by Quick Homepage Maker 5.1
based on PukiWiki 1.4.7 License is GPL. QHM

最新の更新 RSS  Valid XHTML 1.0 Transitional