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経常収支赤字化と円安

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経常収支赤字化と累積債務 

(2013年2月8日)

財務省が発表した2012年国際収支統計で
経常収支黒字が2011年から50.8%減少するという史上最大の減少率となり、
黒字額も4兆7036億円と、今の統計が始まった1985年以来最も少なくなった
(黒字額は、2007年の5分の1に縮小している。)

また、2012年12月期の経常収支は「赤字」であり、史上初となる2か月連続赤字となっている。

経常収支の推移

この経常収支の黒字減少は、日本経済の構造上の転換を背景にしたものである。

経常収支とは
モノ、サービス、配当、利子などの海外との取引状況を示す統計であり、
経常収支が「黒字」なら海外からマネーが流入していることを示し、
「赤字」なら、国内から海外へマネーが流出している状況ということになる。

では日本は、経常収支の赤字国となって行くのだろうか?

まず、「貿易」収支について。

貿易収支は、2011年に赤字化(1兆6000億円の赤字)し、
2012年には5兆8051億円の赤字と、赤字額は増加、2年連続赤字となった。

貿易収支の推移

グラフを見てわかる通り、貿易黒字はこの十数年、減少トレンドたどっている。

これは、日本が国内でモノをつくる「メイドインジャパン」から
海外現地生産中心の「メイドバイジャパン」への転換によるものであり、
経済のグローバル化、円高、安い人件費を求める企業行動、アジア市場の拡大などを背景にしている。

そして、2011年からは、もう一つの要因「脱原発⇒石炭・ガス輸入増大」が加わった。

福島第一原発事故は、
世界最大の地震地帯の一つである日本列島に、杜撰な安全基準で原発を建設し続けたツケが悲劇的な形で噴出したものであり、
メルトダウン⇒東日本の「立入り禁止」地帯化がギリギリのところで回避された大事故であった。

経産省・電力会社との垣根がはっきりしない旧原子力安全保安委員会は廃止され、
上級行政庁の指揮監督を受けない「3条委員会」として原子力規制委員会が発足した。(2012年6月)

原子力規制委は、安全基準を見直し、活断層再調査を実施し、
原発再稼働のハードルは極めて高いものになり、再稼働したとしても数百億円単位の安全対策が必要となる。

つまり、日本は、原発依存に戻ることはできないのであり、
電力需要を賄うためには、石炭・ガスなどの輸入を増やさなければならい、ということである。

電力9社が増やさなければならない火力燃料費は4~5兆円と見られており
その分、貿易収支を赤字化させることになる。

円安がもたらすもの

では、円安は何をもたらすだろうか?

海外展開をする企業にとっては、ドル建て預金や貸付金の評価額を増やし、
海外子会社の資産を増やして自己資本を高めるなどの効果を生み、
海外子会社からの収益増は、経常収支を構成する「所得収支」の黒字を膨らませる。

ただし、すでに貿易立国ではなく「メイドバイジャパン」の国となり、貿易赤字が急激に進行する現状において
円安は、大きな「負の側面」を持つことを忘れてはならない。

原材料を海外から輸入して事業を行っている業者にとって
もし円安が100円、110円と進む事態となれば事業が成り立たなくなるケースが出てくる。

「円安倒産」という言葉もこれから聞かれることになるかもしれない。

ガソリンも上がる。

石炭・ガス火力に傾斜せざるを得ない中での円安は、電気料金をさらに上げる要因となる。

カロリーベースでの食料自給率が40%しかない日本にとっての通貨安(円安)は
すなわち輸入食品価格の全般的上昇を意味する。
(飼料代も上がる、ビニールハウス設営費も上がる、ガソリン・電気代も上がる、で
 国内でつくられた食料品の価格も上がる。)

中国をはじめとするアジア諸国から輸入している衣料品・日用品なども値上がりする。

つまり、貿易赤字国化し、海外生産に傾斜した国にとっての通貨安は
「景気の上昇なき、物価上昇」という「悪いインフレ」(コストプッシュインフレ)を引き起こすのである。

実はすでに政財界からは、円安の行き過ぎを懸念するが上がっている。

1月8日の段階で、自民党・石破茂幹事長は「85~90円が望ましい」と発言し、
日本商工会議所の岡村正会頭も1月27日の記者会見において同趣旨の発言をしている。
(与党の要職にある政治家が具体的に数字を上げて為替水準に言及することは異例)

日本経済の現実・実態を把握している者にとっては
「過度な円安が何をもたらすか」は、あまりも明らかなのである。

経常収支「赤字国」化と、国債・金利

アベノミクスによる金融緩和策は、円安をすすめ、
「貿易」赤字が急速に進む状況下での円安は、さらに赤字額を膨張させる。

そしてそれは、すでにそこに向かって進みつつある「経常収支の赤字化」を早めることになる。

つまり、マネーが国内から国外へ流出し続ける国への転落、である。

マネーが流出すると何が起るか?

膨張した累積国債を、国内のマネーで買い支えることができない、という状況が近付く、ということ。

すでに米国は、とうの昔に膨大な経常赤字国だ。

ただし、米国は基軸通貨国であり、最大の軍事大国であり、世界最大の消費国である。

これまで米国への輸出で稼いできた中国・産油国は、手にしたドルでせっせと米国債を買い、
米国が経常収支赤字でマネーを流出させる分をファイナンスしてきた。

これを経済評論家などは「帝国循環」とか「チャイナランドリー」とか呼んできたが
ここにきて中国も、産油国も、
貿易におけるドル建て決済を避けるようになり、米国債を買い控えるという動きを始めた。

このままでは「米国債は暴落する」。

マネーは流出し、中国も産油国も米国債を買ってくれなければ、誰が買うのか?

米国の中央銀行にあたるFRBしかいない。
(あとは、なんでも言うことを聞く日本に買わせるしかない。アベノミクスの目的の一つもここにある)

つまり、FRBはすでに金融緩和をやめることができなくなっているのである。

では日本はどうか?

外国勢が、金利の低い日本国債を買うのは「安全資産という幻想」があるからであり、
この幻想が崩れれば、こんなものを持っているメリットは何もなく、足早に逃げ去る。

日本が経常赤字国化すれば、マネーが流出する国となるということであるから
国債を、国内マネーで買い支えることができなくなる。

どうすればいいだろうか?

日銀がマネーをばらまき、国債を買い支える以外にない。

つまり、日本もすでに金融緩和をやめることができない国になっているのである。
(安倍首相は、日銀が金融緩和をしていないかのような発言をしているが、これは事実に反する。
 日銀はこれまでも、
 欧州危機で100兆円を超える金融緩和を行ったECB・ヨーロッパ中央銀行よりも、
 リーマンショック以降、通貨発行量をこれまでの3倍以上に膨張させたFRBよりも
 金融緩和を行ってきた。
 安倍首相が言うのは、「まだ足りない!もっとやれ!」ということだ。)
 
そして「金融緩和」は「円安」をもたらし、円安は「インフレ」を招き、
この物価高は、当然にも「金利上昇」をもたらすことになる。

900兆円もの累積公債残高を抱える国で、1%金利が上がれば9兆円の財政負担増となる。

2%、3%と物価が上がり、金利が上がればどうなるか?

消費税増税分が吹き飛ぶだけでは済まなくなり、財政が成り立たなくなる。

日本は、金融緩和を続けなければもたないが
金融緩和をすればするほど国債暴落の日を早めるという蟻地獄に陥ってしまっている。

当面の期間は、金融緩和はマネーをばらまくのであるから
株価を上げるなどプラス面を私たちの前に見せるだろう。

ただし、その水面下で、
無から有をつくりだせるかのような幻想が打ち砕かれる現実が静かに進行し続けている。

資産運用を考える上でも、家計を守るためにも
私たちはこの流れをきちんと見ておかなければならない。

(2013年2月8日)


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